好奇心は板ガラスに反射する

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 絶妙のタイミングで、板ガラスを載せた軽トラックが丁字路に差し掛かった。

 ジーンズにトレーナーの母と園服の子が手をつないで歩み去っていく後ろ姿を、私は毎朝、自転車置き場から社屋に向かう途中に目撃していた。
 私はもう何年もこの母子の背を見送り、母子のことだけを考えていた。
 ―顔が見たい
 遅刻もしくは欠勤しさえすれば願いは叶う。だが、この往来には身を潜められる植え込みもわき道もなかった。ならば遠回りして丁字路側から逆走すれば?
 違う。私は、ごく自然な状況で母子の顔を見たいだけなのだ。
 だから私は、社屋の窓ガラスを割り続けた。
 営繕課とのタイミングさえ合えば、朝、板ガラスを乗せた車が会社に来るはずだ。
 それが今朝だった。

 私は通りに飛び出して目を凝らした。丁字路の前で佇む母子の前で速度を落とした荷台の板ガラスに、母子の顔が鮮明に映った。
 その四つの目は、私を凝視していた。
その他
公開:20/05/26 09:44

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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