なくしものの帰り道

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 夕焼けの赤が世界を一色に染め上げる。私はその道を歩いていた。最近舗装され直したこの道がお気に入り。
 この道を通る時、私はなくした人と会うことができる。なにせ最新式の道なのだ。頭に思い浮かべるだけで、今はもういない人の声をもう一度聞くことができる。足元の圧力発電から供給された電気で、記憶を読み取り、音が出る道路の要領で凹凸を――云々。つまりは機能美に優れているらしい。
 私は瞳を閉じて思う。触れ合うことはできない。顔を見ることはできない。それでもいい。もう一度あなたが話しかけてくれるだけで。
 すぐ耳元で声がした。優しい優しい声がした。
 私は忘れてしまった。あまりにも温かい声だったから。思わずあなたの顔を見たくなってしまったんだ。
 ひとつだけ。守らなければならない規則がある。
 振り返った私にこの道の名前を記した看板が目に入った。
 看板にはこう書かれている、『黄泉平坂』。
ファンタジー
公開:20/05/26 22:44

直見逸

なおみ いつる、です。
ツイッターでは「瀬々幾」と名乗っています。
一日一本を目安に書いていきます。普段は長編とか色々書いています。

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