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ピアニストの演奏が終わった。素晴らしいピアノソナタだった。感情の波をうねらせ起伏の変化をみせて演奏が終わった。最後の音がひびいてピアニストが繊細な指を引くとわずかの沈黙ののち聴衆はいっせいに拍手をおくった。惜しむことのない拍手だ。拍手は鳴り止まずいつまでもつづいた。演奏された時間よりも長いあいだつづくかと思われるほどである。会場の外のロビーでは受付嬢はどこかに消えてワインを売る小母さん一人だけだ。小母さんは扉の向こうの客席の拍手を聞くともなしに聞いていた。拍手は大きくなってきた。小母さんは耳を傾けずにはいられなかった。拍手の波がいつしか調べを作り出していた。その調べがピアニストが弾いたピアノソナタの変奏曲になっていることに気づいたのは小母さん一人だけだった。やがて長い拍手がようやく静まった。会場のあちこちで咳をする声がロビーにも聞こえた。小母さんは一人でぱちぱちと拍手をした。
その他
公開:20/07/25 18:23
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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