火曜日とつかないライター

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百円ライターの着火金具を親指で弾き火花が散る。火はつかない。弾く。火花が散る。強めに弾く。舌打ちが出た。
オイル切れのライターを祈るように振り、咥えたマルボロを噛む。室外機の音は耳障りで、脇腹が痛む。
親指を弾く。火花は路地裏の暗がりに溶けた。投げつけたライターがバウンドを重ねて見えなくなった。
俺の人生はいつもそうだ。
「あいつさえ裏切らなきゃ、足を洗えた」
後悔に意味などない。それよりライターがつかない、それが心から口惜しかった。いつもポケットに2つも3つもあんのに。本当ツイてない。火曜日に火がないなんてあんまりだ。腹も減った。嫁のカレーが食いたい。
空腹と痛みで脇腹をさする。掌にべっとり血液がこびりつく。
足音に視線を上げると馴染みの顔が無機質にこちらを覗く。
「なぁ、火ィかしてくれよ」
俺が笑うと銃口が鳴き目の奥で小さく火花が散った。
耳障りな室外機の音がだんだん遠ざかっていく。
その他
公開:20/07/25 12:19

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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