海返

私が暮らす島では海返と呼ばれる風習があります。
浜辺に流れ着いた人工物を海へと返す風習です。
環境問題の観点から言えば、決して褒められた事ではありませんがこの島では、流れ着いた人工物は海の向こうにいる死者の物とされています。それを海に返さないのは泥棒と同じ。だから私達は人工物を海へと返しています。
ある日、私は浜辺で綺麗な指輪を拾いました。一目見て高価なものだと分かりました。
「その指輪、私のなんだよね」
島に帰省していた聡おじさんの娘がそう言って指輪を私の手から奪いました。
彼女は指輪を薬指に嵌めて、凄く嬉しそうにしていました。
その夜の事です。聡おじさんの娘が忽然と姿を消したと聞きました。
私達は必死に彼女を探すも見つかりませんでした。
でも翌日、指輪の嵌った彼女の手首だけは浜辺で見つかりました。
聡おじさんは「娘は海の向こうで誰かのものになったんだ…」と言って、手首を海へ返しました。