差異広告アップデート

男が電車のホームに立っていた。向う側のホームの奥に大きな屋外広告に女性の顔の写真。
電車が過ぎる。特急電車が過ぎて広告をみると、女性の瞳が動いたか、視線が少しこちらをみている。
また電車が過ぎる。快速急行。広告の女性の視線は完全にこっちをみている。唇が少し開いた気もする。
次の電車は停車したが男は乗らずホームで電車が出るのを待って広告の女性を確かめた。女性の唇に白い歯がのぞいて口辺が笑う。
男は広告の女性を見続けて八本も電車をやり過ごした。

某広告代理店若手社員が「消費者は小さな変化にこそ注目する」を信奉して新しい屋外広告を製作した。精妙な大型電子表示パネルは画像の細部をわずかに変化させる。変化に気づく人に強烈な印象を与えることが若手社員の狙いだ。
その後、広告効果調査レポートは、広告写真に惹かれる人はきわめて少数だが、写真は印象的と報告した。広告商品の記憶は驚くほど希薄だということも。