助けた亀の青春

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 道にガタイのよい亀が立っていた。僕は自転車を側溝ギリギリに寄せて通過しようとした。だが、
「待て!」
 と、亀はすばやく僕の襟首を掴んで、
「覚えてるな」
 と、顔をぐいと近づけてきた。
「あ、あの先週の?」
 夜道の真ん中にいた亀を、車に轢かれないようにと、脇の植え込みへ除けてやった。その亀に顔が似ていた。
「そうだ。助けたことを忘れたとは言わせないぞ」
 だが、あの時は片手で掴める大きさだった……
「ともかく無事でよかった」
「無事じゃねぇ!」
 亀は怒鳴った。
「せっかく助けてやったのに、浦島太郎や鶴の恩返し的な異界モノも異種婚譚も貴種流浪譚もSFにもできねぇとは、情けねぇにも程があらぁ」
「僕を助けた?」
「おーよ。あんたがスランプで苦しんでるのを見てらんねぇって。奥さん泣いてたぜ」
「そうですか。で、あなたは妻とどういう関係で?」
「青春さ」
 そう言った亀の目は優しかった。
青春
公開:20/07/23 09:51

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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