アンカー

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 世の中から苦しみを一掃したい。と祈った。すると稲光が一閃し、そこへ人の形の木片がユラユラと立った。その首には風船が、足首には石ころが、それぞれ糸で結ばれており、浮力とアンカーとのバランスで直立しているのだった。
「人は、くだらない義務やささやかな希望や、夢とのバランスで立っている」
 頭の中に直接響いてくる声だった。
「その狭間で引きちぎられそうになる。それが苦しみなのだ」
 これは啓示だ! 僕は一心に祈った。
「僕は、苦しみを一掃したいのです」
 再び稲光が一閃し、目の前に鋏が現れた。
「苦しみを断ち切りなさい」
「はい」
 鋏を携えて外に出ると、道行く人々に結ばれた風船と石ころが見えた。僕は人々の足首の糸を次々と切った。人々は声を上げながら、大空へと舞い上がっていった。
 大空では悪魔が待ち構えており、夢というアンカーを断ち切られて漂う魂をまとめて網で掬っては、パクパクと食べていた。
ファンタジー
公開:20/07/24 09:26

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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