誰もいない

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最後に人を乗せたのはいつだっただろう。もうずいぶん昔のような気がする。
広場の塔が夕陽に照らされ長い影を引いていた。本来ならこれから夜にかけて、ますます賑わうはずの時間帯だ。
もう誰も来ないさ。
隣りにいた仲間が言った。
お客だけじゃない。俺たちの世話をしていたあいつの姿もずっと見てないだろ。
そういえば、と彼は思った。ずっと姿を見ていない。
マスク姿で並んでいた人たちを整理していたあの青年も、見なくなって久しい。
一体なにがあったんだ。
俺に聞いてもわからないよ。いきなりお客が誰も来なくなって、そのあと少しだけ来て、また来なくなって、それっきりさ。
もうずっと磨かれていない、砂埃だらけの鏡に映った自分の姿は、ずいぶんくたびれて見えた。
キラキラと、あんなに輝いていたのに。

日が暮れて世界を闇が覆った。動かなくなったメリーゴーランドを月の光だけが優しく照らしていた。
その他
公開:20/07/24 00:11

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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