あるオペラ歌手の生涯

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コンクールまで二週間。ライバルは蟻の数より多い。皆を敵だと思いながら全てを犠牲にしてきた彼女に友達や仲間はいない。

発声練習はいつも自然の中で一人で行っていた。
湖の水面を震わす高音。それに驚いたムクドリが温めていた水色の卵を彼女の口の中に落とした。
卵を飲み込んでしまった彼女は三日三晩の高熱に苦しんだのち、喉から出たのは錆びた荷車のような音だった。

彼女はオペラ界から姿を消す事を選んだ。
もう二度と歌えない。喋る事もできない絶望が、彼女をさらに孤独へと追いやる。
放浪の末たどり着いたのは音楽のない小さな村だった。人々は声を出さない彼女を優しくもてなしてくれた。その優しさに触れ、ムクドリの卵と同じ色の涙を流した彼女からは美しい声色が漏れた。

歌える…。

そう気づいた時には空を飛んでいた。
彼女はムクドリの姿で歌いながら大空を羽ばたき、仲間たちと共に空の彼方へ消えていった。
ファンタジー
公開:20/07/22 09:42
更新:20/07/22 09:47

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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