灰汁(アク)の恩返し

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「昨日すくってもらったアクです。恩返しに来ました」
いきなりそう言われ面食らっていると、アクはズカズカと俺の部屋に入ってきた。
「恩返しって、俺そんなにすくったっけ?」
「ええ、昨日の鍋パであなただけがすくってくれたんです」
確かに、仕送り前の金欠でろくな具材を持って来れなかった分、鍋奉行としてがんばったが。
「すくったと言っても、恩返しされるようなすくいではないと思うんだけど」
面倒事を避けたくてそう言うと、アクはしばらく考えている風だったが、ようやく間違いに気付いたらしい。
「そうでした」
「そうそう」
俺はアクにさっさと帰ってもらいたくてドアを開けた。
「しかしせっかく来たのでやっぱり恩返しというものをしてみたいのです」
押し問答していると、俺の腹が鳴った。
「お腹、空いてるんですか?」
アクが言った。

次の日仕出屋から膳(ゼン)が届いた。送り主はアクだった。美味しくいただいた。
その他
公開:20/07/22 19:50
更新:20/07/22 21:26
ただの駄洒落

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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