坂道の裏側

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母の望みを裏切り、青年は家を飛び出した。継父との生活など考えられない。けれど母の事は大切に思っている。母が幸せに暮らしてくれればそれでいいと覚悟して縁を切った。

十年後、偶然見かけた母の姿はみすぼらしく、幸せの要素など微塵もなかった。
憎しみが湧いていた。
坂の上にある自宅はバベルの塔のように、自分が近づけば新しい家庭を崩壊してしまうに違いない。
母が一人下ってきたところを一言言ってやるつもりで待ち伏せる。だが、自分の子供に気付きもせず通り過ぎていく背中に青年は両手を突き出した。
その時、視界に入った。
転がり落ちていく母の手首には、白杖が引っ掛けてあったのだ。

青年は坂を走って下り、声をかけた。
「大丈夫ですか。今、救急車呼びます」
「いえ。大丈夫です。ただ…」
青年は母の白く濁った目を見つめ言葉を待つ。
「お詫びに、また会いに来てちょうだい」
坂道はまだ裏側に続いているようだった。
その他
公開:20/07/21 12:07
更新:20/07/21 12:15

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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