彫爪師

「君、いい指してる」
サービスの間中、手ばっかり舐める様に見る。捲り上げた方の腕を隠した。
「もっと稼ぎたくない？」
釣銭ごと握られ、制服の袖が痒くなる。そういうの、スタンドじゃなく専門店でどうぞ。喉元まで出掛かった挙句、
「高いっすよ」
自分でも狂ってると思う。
指に名刺を挟まれる。尖った爪に女郎蜘蛛が巣を張ってた。

雑居ビルの隅にしては洒落た店。
上品な椅子に革張りのメニュー。タトゥーなんて一生縁がないと思ってた。
「御希望は？」
「なるべく痛くないやつ」
消毒薬で拭かれた指が冷たかった。


施術は３０分だった。
「色入れないの？」
「インビジブル。粋でしょ」
ネイルタトゥー、無痛で試せて伸びれば消える。最近の流行らしい。
コート剤を塗ってブラックライトを当てる。爪の夜空に花火が開いた。
「爪に火ぃ灯して働けって？」
「私と一花咲かせましょ」
かくして俺は、女郎蜘蛛の手先になった。