ゆうだけは大丈夫

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「ゆうだけは大丈夫?」
「任しておくんなせぇ」
七つ道具の大風呂敷を広げ、トイチは新客の髻を把んだ。江戸は神田の髪結い床『十一屋』の主である。十種の男髷を結い尽くし、結髪の腕は江戸一と名高い。
「今から興行だよ。本当に大丈夫?」
流石に花形、鼻どころか天狗が頭に乗りやがる。心持ち閉口しつつ、トイチは櫛を捌いた。
千両役者の弥次井喜多川。稼いだ金を芝居に貢ぎ、野次いざ知らずの『弥次井座』を立ち上げた。『東海道ちゅう膝栗毛』なる鼠の滑稽芝居が当たり、懐も鼠算とか。
トイチの方は一束三文。『刀(十)負けの一髪屋』と揶揄される剃刀下手。髪結いの本分の月代が剃れず、店は閑古鳥だ。
「出来ましたぜ」
「……ゆう、大丈夫だよ!」
鏡を当てた弥次井は、結い料を三両も弾んだ。

後に『十一屋』は役者御用達の店となり、出世街道をひた走る。
「ゆうなら十一屋に行っちゃいなよ!」
天下の弥次井の一声が響いたのだ。
ミステリー・推理
公開:20/07/18 21:07
Twitterで遊ぼう #もしもあなたのツイートから 物語を作ったら 最終巻『ゆうだけは大丈夫』 たらはかにさんプロデュース? 色々混ざった十返舎一九 『東海道中膝栗毛』ギョーカイ版

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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