風景裁断屋

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路地裏にあるシャッター街に、裁断を生業としている老人がいた。
老人が裁断するのは風景のひと場面。昔は家族写真同様に利用する客がいたが、過疎化が進み、今では趣味の域で活動していた。

今日も愛用の裁断バサミを風景にあてる。ジャキジャキジャキと小気味よく切り抜き、反物のように丸めているうちに、穴の空いた景色は自然と埋まっていく。
老人の家にはこうして残された美しい風景たちがいくつも山積みにされていた。

ある朝、大地震の影響で街は倒壊してしまった。
被害の大きさに再生不可能と誰もが諦めかけたその時、一枚の反物が風にあおられ、落ちた地面に花を咲かせた。
老人は全ての反物を店から運びだし、一枚一枚、丁寧に景色を選びながら貼り付けて美しかった街を再生させると、数時間後、微笑みながら静かに息を引き取った。
街の人々は老人を忘れないよう、店を裁断バサミで切り取り、その反物は今もどこかで保管されている。
ファンタジー
公開:20/07/18 09:18

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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