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「            」

 彼女は空白に包まれていた。

 通勤路の途中にある喫茶店。
 テーブルに置かれたコーヒーは既に冷めている。
 
 入社して間もない頃、重要なプロジェクトのメンバーに彼女は選ばれた。責任のある仕事で、彼女は懸命に働いた。成功も失敗も、全てそのプロジェクトで経験した。彼女の二十代はプロジェクトと共にあった。

 しかし今日、彼女の頭に仕事の事は一切ない。

 今朝、彼女がいつもどおり出社すると、会社は倒産していた。会社のエントランスは固く閉ざされ、張り紙が一枚貼られていた。会社の事業は全て停止、全社員は自宅待機とのことだった。

 会社から帰る道すがら、通勤路の喫茶店に彼女は初めて入った。
 喫茶店の窓から、見慣れた通りを見る。
 彼女の心には、何の感情も湧き上がってこない。

「            」

 今はまだ、空白だけが彼女の心を埋め尽くしていた。
その他
公開:20/07/18 22:38

森下慎吾

文章を書くのは楽しいけど、難しい!
読んだ人が楽しんでもらえるよう、がんばります。

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