跡の男

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 交通誘導員(63)。身寄り無し。容疑「暴行」。本人は、当該ショッピングモール勤務初日の昼、館内ベンチで昼食中、床に踵の跡を見つけた。本人はその跡に自分の目の焦点がバッチリと合ったと感じ、それまでぼんやりしていた「生きる意味」に開眼し、毎日の昼食時、その跡を見ることが生きがいとなった。床の他の汚れは、翌日には跡形もなくなっていたが、その跡だけは次第に薄くなりながらも、一ヶ月以上そこにあったという。本人はそれを「私が跡に会うのを楽しみにしている想いが跡に通じ、がんばってくれている」と感じ、毎日祈るような思いで跡に会っては、心ゆくまで語り合った。
 ある日、シフト変更があり、本人が夜食をそのベンチでとろうとしたところ、清掃員(被害者・45)がモップで執拗にその跡をこすり落とそうとしていたため、その清掃員に罵声を浴びせながら体当たりをした。連絡をうけた常駐警備員が本人の身柄を確保、逮捕に至った。
その他
公開:20/07/17 14:44
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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