初夏の雪

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その猫は、にっこりするのが得意だった。それは穏やかな顔をする。

「そろそろ行きたいの?」私は猫に話しかける。猫は頷いた。

私と猫はよく一緒に出かける。猫に名前はない。私は猫と呼んでる。猫の存在があれば、それで十分なのだ。

せっせこせっ、と小さな鞄に荷物を詰め詰めする私。
てってこてっ、と猫は私の周りを駆け回る。

今回は日帰りで温泉へ。猫は水が平気なのだ。

猫を連れて普通の温泉には入れない。だから天狗のタクシーを捕まえ、葉っぱに乗せてもらい、2つ先の山へ連れていってもらった。

飛ぶときも猫は涼しい顔でにっこりしてる。

山の中の温泉は貸し切りだった。猫とゆっくり浸かっていると、木漏れ日が差した。そして風が吹いて、白い花がひらひら落ちる。まるで初夏に降る雪のように。

私は目を閉じる。まるで世界には二人しかいないみたいだ。

そっと隣を見ると猫は満足そうに、穏やかに目を細めていた。
ファンタジー
公開:20/07/17 23:00
更新:20/11/23 13:31

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

104.がおー

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