2556

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「お世話になりました。」
枯れすすきの如く頭をたれて男は刑務官に挨拶をした。
「しっかりやるんだぞ。元気でな。」
私はその手を強く握り、晴天に恵まれなかったその日を
せめて気持ちだけでも晴らそうと努めた。
同席していた上司の表情は硬かった。
父親ともとれる年代の受刑者の背中を見送り
少し複雑な気持ちになりかけた時
「2556ば…吉田が『せみさん』と呼ばれていたのは知ってるか?」
上司の言葉に彼が改めて吉田という名前があることを重く感じた。
「いや、普段は番号でしか呼ばなかったので。受刑者同士でそんなあだ名が?」

「そうだ。何故その名なのかはそのうち分かる…」
言い切りたくなかったのか上司の声は尻すぼみになった。


程なくして、
吉田は強盗傷害事件を起こし再び受刑者として戻ってきた。
まるで7年間土の中で過ごし、成虫として一週間しか生きられない蝉のように。
その他
公開:20/07/16 06:00

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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