始まりの図書館

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一風変わった図書館がある。
古今未東西表裏、ありとあらゆる本の『始まり』を収蔵する。
パピルスから和綴じの草子、竹簡に羊皮紙にノートの角、ペーパーバックも電子書籍も、VRに夢物語まで揃っている。
試しに一冊開いてみる。
どのページをめくっても、文字は記されていない。
しかし白紙でもない。

たとえば『源氏物語』は、几帳を透かした寝殿造りの庭。『吾輩は猫である』は、机に涎を垂らす背中で香箱を組む猫。『奥の細道』は、くたびれた草鞋を直しながら、矢立の筆を繰る指。といった具合に、その本がまさに始まろうとする、瞬間の景色が浮かぶ。

もちろん図書館なので、本を借りる事も出来る。
こっそり確かめたくて、自宅に帰って開く。――ホテルの部屋、山積みの吸い殻と出前の食器、「 」で止まった画面。
今回も難航と見えるが、あるからには完成するはず。
『未来日記』を閉じ、腕まくりして缶詰め予定のホテルへ向かった。
ミステリー・推理
公開:20/07/15 23:17
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創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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