被写体

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 横断歩道の向こう側、学ラン姿の少年が、カメラを構えてレンズをこちらに向けている。今時、一眼レフなんて珍しい。そう思ったのは一瞬で、私はあることに気がつき後ずさった。
 何を撮っているのか。周囲には被写体になるようなものは見当たらない。
 他の道へ……しかし職場へのバス停はすぐそこだ。時間に追われる私には、他に道はない。自意識過剰だと自分に言い聞かせるが、どう見てもカメラは私を中心に捉えている。電柱の陰に隠れ様子を窺い、ようやく私は安堵した。少年は構えを崩さなかった。
 私を撮っていたのではない。
 信号が青に変わり、私は自分の狼狽具合を笑いたい気持ちすら感じながら、横断歩道を渡り出した。清々しい風が横から吹き付け、あっと思う間もなく、私の身体は宙を舞った。急ブレーキによって車道の削られる、焦げた臭い。
 全身の痛覚が悲鳴を上げ始める直前、シャッターの切られる音を聞いた気がした。
ホラー
公開:20/07/15 22:16
被写体 カメラ 少年

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