花の顔(かんばせ)

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朝の君は、鏡台の前へ背を伸ばし、寝乱れた髪を撫で付けている。
手櫛を通す度、藍染の襦袢の襟から湿ったうなじが覗く。小指の先で紅を引き、見返って微笑う唇が『お早う』と動くと、今日も朝が来たと思う。

昼の君は、桃色の小袖に襷、萌黄の前掛けを締め、井戸端と台所を往復する。
はたきの先で使われ、時折尻を叩かれ、顰めた眉へちょっかいを掛け、終いに追い出される。戻った後もまだ少し、力の入った額が愛しい。

夕べの君は、狭い庭をそぞろ歩きながら、ぽつぽつ灯り始めた星を数えている。
雪縮緬の浴衣も絞りの帯も、指の影を落とす横顔も、目を離せば消えそうで、触れれば傷付けそうで、繰り返し名前ばかり呼んでしまう。

夜の君は、淡藤の寝巻きを横たえ、手遊びに枕の縁を抓んでいる。
障子越しの月は鈍く、手探りで捕えた頤の線が、丁度そんな形だと思う。正直に言うと、薄い歯が親指を噛んだ。
『お休み』吐息は花の香りがした。
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公開:20/07/14 23:20
朝顔/昼顔/夕顔/夜顔

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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