後家殺し

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 黄昏時の川原で、黒い絽の着物に緑の輪袈裟の僧が、二本の卒塔婆に念仏を唱えていた。辺りには羽黒蜻蛉が二、三匹。
「この川沿いでは後家殺しと呼んでいます」と僧が言う。その謂われを問えば……
 江戸末期、一人の外道がおりました。この外道、喪服の女を見境なく犯すという凶状持ちで、この上の村でも色の白い華奢な奥方が夫の通夜に犯されて、その夜、入水自殺をいたしました。
 すぐにこの界隈へお触書が回り、村人が警戒を強めていたところへ現れた外道は返り討ちに遭い、半狂乱で、この河原まで逃げてきたのです。
 そこに、喪服をしとどに濡らした色の白い華奢な女が横たわっていました。外道は女を蹴飛ばして仰向けにすると馬乗りになりました。すると女の手足が外道に抱き着いたのです。外道が口を吸っていたのは髑髏で、喪服と見えたのは、無数の羽黒蜻蛉でした。これは肉食で顎がたいへんに強い。
 これが「後家殺し」の謂われです。
ホラー
公開:20/07/14 23:09
更新:20/07/14 23:10

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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