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妻を捜して土砂降りの商店街を歩いていると、新しくきりたんぽのようなビルが建っていた。
あれ。この場所には元々何があっただろう…。
雨は激しさを増して、なぜ私は傘をささずに妻を捜しているのか、この場所には何が、考えるうちに頭はびしょびしょに混乱した。結局妻は見つからず、かつての風景も思い出せずに、私は私を捜しにきた女に手を引かれて帰った。
駅前のタピオカ屋もそうだ。あの場所も店の入れ替わりが激しくて、私は記憶の森で迷った。タピオカの前は占いの館で、その前は木彫り鰻の工房。そう。私は私の手を引く女に見覚えがあった。監禁されて、薬を盛られながらはっきりと分かった。この女が妻だ。
くちゃりくちゃりと妻はきりたんぽを食べる。私は妻の口の中。そう。私は妻の掌で生きることに絶望して逃げたのだった。
「商店街の新しいビル、前は何があった所だっけ」
「口内炎でしょ。その跡地」
私は雨に濡れていたい。ずっと。
公開:20/07/14 20:28
更新:20/07/15 06:44

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