しあわせのなる木

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同じ種が二つあった。
一つは笑顔の子供が話しかけながら水をあげ、もう一つは孤独な子供が泣きながら水をあげた。種は芽吹き、見た目にはなんら変わりのない木が育った。
笑顔の木からは柔らかな実がふんわりと香り、孤独な木は涙に似た実がしたたるようになった。人々は笑顔の木になる実ばかりを食べ続け、一年が過ぎ、二年が過ぎ、なぜかみんなからは笑顔が消えていった。

ある日、二本の木に雷が落ちた。裂けた二本は寄り添うような形でお互いを支え合い、成長を続けるとやがて一本の木になった。
その木は実をつけなかったが、多くの葉を身に纏うと木陰には自然と人々が集うようになった。
木は言った。
「悲しみを知る事がこれほど幸福な事だとは知らなかった」
人々はやっと、自分たちがどれほどしあわせであるかを知る事ができたのだった。
ファンタジー
公開:20/07/15 13:43

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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