耳に座るとき

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私は今日も団地のトイレに座って、世界のどこかでトイレに座るスガオくんと言葉を交わす。私たちは便座という世界の耳に座り、おしりで繋がり語りあう。
トイレは己の未熟さを知る宇宙だとスガオくんは言った。スガオくんは3人兄弟の末っ子で、私と夫が管理している団地で育った。5人家族の彼の家は手狭で、自分だけの空間を求めて幼い頃からトイレが好きだったという。
トイレは排泄だけの場所じゃない。あなたが好きです。
年の離れた少年からの告白に私の胸は震えた。スガオくんとの出逢いは詰まりをおこした彼の家のトイレだった。受験を控えたスガオくんと夫の代理で修理に訪れた私。はじめてのキスも、はじめての夜もトイレ。
スガオくんは今、世界のトイレを座り求める冒険家で、禅の世界に生きている。あらゆる場所に丸太を組んで、己のトイレを表現する日々。

団地の取り壊しが決まったんだよ。
マジすか。

お願い。夫と話すのはやめて。
公開:20/07/15 12:54
更新:20/07/15 14:59

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