はじまり

6月25日、午後7時。友達からのメールで誕生日だったことに気づく。仕事を終えて疲れきった身体に、容赦なく雨粒が刺さる。誕生日だからといって特別なことは何もない。いきつけのバーへ向かう途中、イヤホンから聞こえてきた「頑張れ」の言葉に舌打ちをする。言われなくても頑張ってるんだよ私は。そう心の中で叫びながら、足早にバーへと向かった。
薄暗い店内には私とマスターだけ。顔が暗いね、と言いながら、カクテルを差し出すマスター。私って今、幸せなのかな。小さな声でそう言いながら受け取った。俺は今、幸せだよ、とマスターは言う。こうやって自分のお店持って、いろんな人の話を聞いて、自分のやりたいことやれてる。だから俺は今幸せ。でも、幸せの感じ方って人それぞれだから。
結局、幸せってなんだろう。店を出ると、雨はもう止んでいた。水溜りを蹴飛ばして、大きく舌打ちをした。
また新しい一年が始まる。