引っ張りたい！

通勤電車のベンチシートに座って、わたしはスマフォの画面に見入っていた。SNSのチェックも一通り済み、前に立っているビジネスマンをちらっと見上げたところ、あごの下に一本だけ伸びたヒゲを発見してしまい、どうしようもない衝動に駆り立てられていた。

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今日も座れないな。あのパフォーマンス好きな都知事、いっこうに満員電車の対策考えてないよな。口先だけなのもいい加減にしてくれよ。などと、吊り革につかまりぼんやりと車窓を眺めていたが、ふと目の前に座っているOLを見下ろすと、頭の上に一本だけ立っている白髪がとても気になりだし、得も言えぬ衝動に駆られた。

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こんな日常でそんなことしたらそれこそ非常識だ。でも我慢できない。どうしよう！

二人が同時にそう思った瞬間、列車が緊急停止でブレーキをかけ大きく揺れた。

ビジネスマンはよろけたふりをしてかがみ、OLは｢あっ！｣と言って前に手を伸ばした。