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ショーウィンドウにずらりと並ぶ顔色。七月だというのに、秋の新作でいっぱいだ。うす紫の一枚を手に取った。

「お客様、お目が高いですねえ。著名なデザイナーの方が、秋ナスをイメージして完成させたお顔色なんです。季節感とともにお坊さんの袈裟を思わせる気品もあって。わたしも持ってるんですけど、ヘビロテ間違いなしですよ」

わたしたちが顔色を選ぶようになったのは、ここ数年のことだ。ぴったり肌に貼りつく特殊素材は、もとは人工皮膚の研究から生まれたらしい。その人の持ち物のように馴染み、上からメイクもできる。今年は顔色の重ね着も流行の兆しを見せている。

うす紫の一枚を購入し、試着室で顔色を変えて店を出た。あの人は褒めてくれるだろうか。約束より少し前に駅につき、彼の姿を探す。

赤、黄、緑。カラフルな人波の中に、すっぴんの彼を見つけて手を振る。彼は開口一番言った。

「どうしたの、顔色悪いよ」
SF
公開:20/07/13 12:42

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