海を拾う(改)

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「いてぇ」
「どうしたの」
リビングで寛いでいた彼女が洗面所に顔を出した。
「コンタクトレンズを取ったんだけど、まだ目に付いてる気がして眼球を触っちゃったよ」
「うわ、痛いそれ。大丈夫?」
「あれ、やっぱり付いてたんだ。ん? 桜貝みたいだ」
ポロリと目から落ちたそれを指でつまみ上げるとガラスのように煌めいた。ガラスの向こうに白い波が見えた気がした。
「あ、ちょっと。止めなさいよ」
彼女が止めるのも聞かず、もう一度それを目に入れる。
「潮の匂いがする。ああ、海だ」

「返して、私の目」
「え?」
目に激痛が走ったと思ったら、大量の涙で溢れた。歪んだ視界越しに、大きな尾ひれが見えた。
「人魚?」
声に反応したのか、くるりとこちらを振り返った。
「どうしたの、びしょ濡れよ」
不思議な色の目で心配そうに見つめた彼女の背中には海。
その他
公開:20/07/14 12:11

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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