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父が突然禁煙を始めた。
またか。これまで何度も失敗している。今回もきっと失敗する。
そう思って「禁煙に成功したら好きなもの買ってやるよ」と冗談で言うと「その言葉忘れるなよ!」と怒鳴り返された。

その日の夕方、縁側に座る父は口に何かを咥え、煙を吐いていた。
ほら、やっぱり失敗した。
私も父の隣に座り、一服しようとしたところ父に煙草を取り上げられた。
「おめぇも少しは体のことを考えろ」
父には言われたくない…その父が煙草代わりに出しだしてきたのはシメジだった。
「ほら、これに火ぃ着けて吸ってみろ。意外に美味いぞ」
言う通りにすると土の香りが肺を満たす。ああ、確かにこれはこれでいいな。
「香り松茸、味シメジってな。おい、約束忘れてないよな?禁煙に成功したら国産の松茸を買ってもらうからな」
嫌らしく笑う父に私は祖父の使っていたパイプと国内工場で作られたインスタントの松茸のお吸い物を手渡した。
公開:20/07/11 19:51

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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