人な罪

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「大丈夫です。あなたを殺そうとは思っていません。」
手にナイフを持った青年と対峙したまま膠着状態が続いている。
「言ってる事とやってる事がおかしいぞ。」
初対面の冴えない青年を無理やり思い出そうとしていた。
「何か恨みを買うような事を私はしたのか?」
青年はこちらの緊張を嘲笑うように冷静だ。
「いえ、安心してください。あなたには恨みはありません。」
おい、ナイフを向けての言葉じゃ無いぞと嘔吐しかけたが飲み込んだ。
歩いていたら後ろから肩を叩かれてこうなった。
いや、正確には電話しながら歩いていた。
無能な部下への叱責だった為、声が大きすぎたか。

はたと気づく。
「あ、金か。」慌てて財布を出そうとした。

「罪を憎んで人を憎まず。」ナイフを見つめながらつぶやいた。
私もナイフに釘付けになる。
「なので」
「僕はあなたを殺そうとは思っていません。あなたのような人を殺そうと思っています。」
その他
公開:20/07/11 15:48

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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