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「何で調味料が物置に…」
が、その商品の名はアジノモトではなくアシノモトだった。
瓶に書かれた説明文は難しかったけど、おかずでなく土に振りかけるものと分かったから、空地に行って撒いてみた。すると一瞬で葦原が出来て囲まれた。
「なるほど、葦の素」
外に出ようとしたけど、どこまで行っても切れ目や出口は見つからない。
いつまでたっても夜にならないし、それでいて何日も歩き回ってる様な気分にもなり、ギョッギョッという鳥の声まで聞こえてくると、僕はもう諦めてその場に踞り目を瞑った。

やがて、カサカサと葉が揺れる音が聞こえてきたがそれも止み、周りを見ると枯葦ばかりになっていた。もう鳥の声も聞こえず、代わりに五時のチャイムが鳴り響いた。すると僕のいる場所は、ただの空地に戻っていった。

僕が葦原で過ごしたのは、四季ではなく四時間だった。
でもあの時ちぎってポッケに入れた一本の穂は、今でも紫褐色のままだ。
ファンタジー
公開:20/07/11 23:53
更新:20/07/12 16:18

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