12
10

 私は神社の石段に一人で座っていた。仕方ない、彼女が彼を好きなら。そして彼も彼女が好きなら。苦しくて胸が潰れそうだった。
「お嬢さん」
 声のした方を見る。服装から神主さんだろうと思った。
「これは雨飴といいます。なめると心が晴れやかになりますよ」
「雨飴?」
 気分を変えるという意味でくれたのだろう。私はお礼を言うとその飴を口に入れた。
「あ!」
 瞬間、私は雲の中にいた。落ちる、落ちてゆく。息もできないスピードで真っ逆さまに雲を突き抜ける。鳥の群れの間を落下し飛行機の横をすり抜けて落ちる。町が見えてきた。ああ、あれは私の住む町だ。神社が見えてくる。
 ぽとん。
 私は少女の頬に落ちた。その少女は私だった。
 私は泣いた。そう、私は泣きたかったんだ。降り出した雨の中、大声で泣くと少しすっきりした。
「よし、帰ろ」
 通り雨は止み、階段が濡れて光っている。口の中からほんのりと雨の味がした。
ファンタジー
公開:20/07/10 10:34
更新:20/07/10 12:07

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容