5
3

 雨の予報は知っていたからレインブーツを履いてきた。でも、いまさら泥で汚れるのを厭うだなんてヘンだなと気づいて、少し笑った。笑うのは久しぶりで、それが余計に寂しさを募らせた。
 目の前が明るくなる。最終目的地。名も知らぬ山の名も無き池。天気は急速に回復していた。池の水面に雲の切れ間が青い。
 レインブーツを脱いで池にむかって揃えてから、背中のリュックを一度、二度と揺すった。それから、ただ前だけを見て、滑って転んで一人で慌てふためくなんてことのないように慎重に、わたしは池に足を浸した。ゆっくりと広がる波紋。
 その先に、大きな虹が映っていた。
 わたしは、波紋で虹を乱したくないと思った。だから、待とうと思った。わたしは歩みを止めて待った。だが、夜になり、朝を迎えても、虹はそこに映っていた。
 帰ろう。
 踵を返して池を出た。そしてレインブーツを履くために、池へ向き直った。
 虹は消えていた。
その他
公開:20/07/10 10:05
筋肉少女帯 生きてあげようかな リスペクト

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容