師の影は深く

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底に向かって手を伸ばしては空を切る。流体の抵抗。手さぐりして何もつかめずゆらめく、底に向かって。
水面からはいつしか遠く水流にただよう。ゆらゆらといつまでも底は遠い。
私の師は川のほとりで瞑想されていた。師にならって私も川面を眺めて修行を積んだ。
師はおっしゃった。
「悟りは目の前。そこにある」
思慮深い言葉である。師の言葉を何度も噛みしめてある日、すべては底にあるのだと気がついた。「そこ」は底なのだ。笑ってもいい。私は真剣に考え抜いたのだ。そして水流に入ることを決めた。私の新たな修行がはじまった。それ以来、底に向かってただよう日々だ。
水面に浮いていた落ち葉が沈んできた。葉はあるいは私の分身であろうか。ここまで沈むと流れはくらい。葉はくらやみに溶けずにゆれている。どこまで沈むのだろうか。
くらやみの奥深くに底があるに違いないが、私にはまだまだ到達できない。
修行は長く、師の影は深い。
その他
公開:20/07/10 08:10

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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