もっときつく

達郎の前で彼の息子が意識不明のまま何日も眠っている。
妻は警察の取り調べを受けているが、「もっときつく」などを
うわ言のように呟くだけだそうだ。

彼がドラキュラ。息子がミイラ男。娘が魔女に扮したくさんのご馳走とプレゼントで妻の誕生日を祝う予定だった。今思えばそれが間違いだった。

悲劇は突然起きた。息子の姿を見るなり、悲鳴をあげたかと思うと息子の包帯を渾身の力できつく締めはじめた。
あわてて妻を取り押さえたときには息子はぐったりとしていた。
「どうしてこんなことに」達郎は病室の前で頭を抱えた。


妻は夢を見ていた。彼女の弟と幸せに暮らしていた日々の夢。それが一夜の空襲にして無残に破壊された。
重傷をおった弟に彼女が止血をしようといくらきつく包帯を巻こうとも血がどんどん溢れ出してくる。
「このままじゃ死んじゃう。もっと、もっときつく」