彫刻のエステティシャン(つづき)

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そして、あるときついに、文字通り大きな仕事が舞いこんだ。
施術の当日、東大寺でその彫刻を前にして、私は緊張で手がふるえた。
右手を挙げて左手を下げてポーズを取って鎮座する像ーーそれは世界遺産にも登録されている奈良の大仏「盧舎那仏坐像」だった。
私は、造立された奈良時代からの疲労がにじむ背中をマッサージしはじめた。背中が終わると、今度は肩や腰、足元や腕もほぐしていく。そして最後に頭と顔を仕上げると、私は言った。
「······以上で施術は終了です」
巨大な像は初めての経験だったが、自信はあった。しかし、ちゃんと満足してもらえただろうかと不安があるのも事実だった。
そのとき、横にいた東大寺の住職が笑って言った。
「いやあ、大仏様もリラックスできたようです。あんな顔は初めて見ました」
私も遅れて、像の微妙な変化に気がついた。心なしか、その表情がおだやかになっていたのだ。
像には後光がさしていた。
その他
公開:20/07/11 07:17
『とってもふしぎな創作ドリル』 「彫刻のエステティシャン」 施術 東大寺 彫刻 世界遺産 奈良の大仏 盧舎那仏坐像 奈良時代

山田衆三( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育ち、大学時代は京都(御所の近く)、大学院時代は湘南(海ではなく山側)で過ごす。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年06月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。

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