梅雨酒

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京都の老舗料亭『雨後の筍』では、梅雨の季節限定で食前酒に「梅雨酒」を出す。
清水焼の酒器に入った梅雨酒は、自家製の梅酒を愛宕山麓で汲み上げた名水で割っているため見た目は琥珀色だが、徐々に色が変化していく。
実は、梅雨酒には紫陽花から抽出した「アントシアニン」と呼ばれる色素が配合されているためだ。
梅雨酒は、赤や赤紫に変色することが多い。原因は、環境問題で話題に上ることが多い酸性雨のためだ。
梅雨酒を一口啜ると「シトシト」という雨音が口の中で奏でる。さらに飲み進めると徐々に「ザーザー」という雨音に変わり、最後は「ポツポツ」という雨音で静まる。
梅雨酒は、味覚とともに視覚と聴覚も楽しめるところが醍醐味だ。

梅雨酒を飲み終えて先付に箸を伸ばしていたときだ。
「コンチキチン」
どこからか山鉾巡行で耳にするお囃子の音色が聞こえてきた。
京都では、祇園祭が終われば「梅雨が明ける」といわれている。
その他
公開:20/07/10 19:57
更新:20/07/10 20:00
京都 雨後の筍 梅雨 食前酒 清水焼 梅酒 愛宕山 紫陽花 山鉾巡行 祇園祭

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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