見えているものの差

親の育児放棄によって幼い命が失われた。
あまりにも痛ましい事件…取調室で詰問する私に親は言った。
「だって死ぬとは思わなかったんだもん。水と食べ物は置いてあったしオムツもしてたから大丈夫と思った。そもそも人間ってそう簡単に死なないじゃん？こんなの事故だよ事故！」
親の言葉に反省の色はない。私は怒りで強く拳を握り締める。
「警部…無駄ですよ。あの親と私達が見ている世界は違い過ぎる。あの親は見たくないものを見ないようにしている。何も見ていないんです」
そう言って部下は親に目薬を渡した。
「それを点して、あの子と同じ時間を家で過ごしてください」

数日後、親を迎えに家に行った際、私は驚かされた。
親はやせ細り、やつれた顔で憑りつかれたかのように「ごめんなさい」と呟く。
「あの親に見たくないものを全部見えるようにしたんですよ」
部下はそう言って親を連行した。
あの親は一体この家で何を見たのだろう…