嘘つきな熊

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熊は危険だとみんなが噂する。森を歩けば食事中であろうと逃げ出し、残された熊の心が一瞬で悲しみの雨に濡れてしまうなんて知るよしもない。

みんなを怖がらせないように熊は山の頂で暮らしはじめた。そこからはひとりぼっちの心を慰めてくれる海が望めた。
その海の異変を熊は見逃さなかった。水平線の向こうから山を揺るがす轟きが、見た事のない景色を連れてこちらに向かっていた。
すぐに森のみんなを避難させなくては…。けれど、自分が姿を見せたら話なんて聞かずに隠れてしまうだろう。
考えた末、熊は自分でも驚くほどの咆哮を森へ向けていた。
「今から順番にお前たちを喰っていく。全員残らずだ!」
森はパニックだった。
姿の見えない熊の咆哮に追いつかれまいと逃げるみんなを熊は愛おしそうに見届けた。
「みんな、どうか無事で…」
熊はやっとみんなの役に立てた事に誇らしく、目を閉じて背後から迫りくる水の音に耳を澄ませていた。
ファンタジー
公開:20/07/08 17:53
更新:20/07/08 18:17

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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