会長が好き。

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湿度計が振りきれている。
寝苦しさに目を覚ました私は、自分のヘソに溜まった水に生態系が出来上がっていることに気がついた。
とめどない汗と湧水。空気中の水分が私の体の丘陵に滴り、流れ、その小さな流れが肌理を削り大河となってやがて深いヘソにこんこんと水を注いでいる。
肌川には美しい浅緑のバイカモが育ち、澄んだ水には小魚の群れ。鮎や岩魚の姿も見える。その先に広がるヘソ湖には朝の光が煌めいて、水鳥が眩しそうに羽根を休めている。ヘソのほとりには木蔭があって、水を飲む親子のキリン。対岸には象やバッファローの群れがいて、この穏やかな時間をその尻尾で指揮するように揺らしている。
私は世界が出来すぎていることに驚き、それを壊してしまう恐ろしさから起き上がることができない。
会社はどうしよう。夕方には会長とデートの約束がある。
友達からは「からかわれているだけだよ」って言われたけど私は本気。でもこんな体じゃ。
公開:20/07/08 12:25
更新:20/07/08 14:35

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