空の穴

2
2

「じいじ、おしょらにあなあるね」
右手に繋いだ小さな手の持ち主がぽつりと言う。
「ん? 穴?」
「ほらあしょこ」
夕方と夜の中間色に染まった空に丸く満ちた月が出ていた。
「あれは月って言うんだよ。お伽話ではね、ウサギが住んでるって言われてるんだよ」
「うしゃぎしゃんがでてくるあななの?」
「んー、あれは穴じゃないんだよ。さあ、そろそろお家に帰ろうか」
ばあさんに頼まれたとはいえなかなか手が離せなかったが、いつまでも歩き続けているわけにはいかないだろう。

いつか別れの日が来るのなら早い方がいい…

月から光の帯が伸び、私たちの前で止まった。
「さあ、お帰り。また会いに来ておくれよ」
小さな体は光に包まれて軽々と浮かぶ。
無垢な心の持ち主は怖がることなく、頬を薄桃色に染めた。
「じいじ。またね」
光の帯は音もなく、穴に吸い込まれていくように、振り続けた右手の温もりと同時に消えていった。
ファンタジー
公開:20/07/08 09:25

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容