梅雨の住人

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もう十日ほど、空は泣き続けている。妻も洗濯物が乾かないと泣いている。気を抜くと夏のような日差しが出ているかと思えば、またすぐ降り出す雨に翻弄され、というよりそれを言い訳に庭の草刈りを先延ばしにしていたが、梅雨が明けると僕はついに重い腰を上げた。

鎌を片手に草をかき分け、ふと手を止めた。
いくつもの目が僕を見上げ、世界が静止する。
小さな人間たちが村を作って暮らしていたのだ。
僕は見てはいけないものを見てしまった後ろめたさで「すみません」と謝罪した。
「やっと梅雨明けですか? 今年は例年より長めでしたね。ではわたくしたちもお暇させていただきます。お世話になりました」
「…はあ」
彼ら一族はノミのように弾んで塀の向こうへ飛んでいく。
僕は何事もなかったように草を刈る…刈る…刈る…。
顔がにやけてくる。
来年も我が家に来てくれるだろうかと、ほんの少しだけ梅雨の時期を楽しみにしている自分がいた。
ファンタジー
公開:20/07/09 09:50
更新:20/07/09 12:17

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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