アルコホラリウムの人魚

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 ぼくが初恋の相手に出会ったのは小学校に上がるか上がらないかぐらいの頃、祖父母の家の近くの渚で遊んでいたときだった。今でもぼくは、彼女に触れたときのざらついた感触も、ペリドットのような輝きの瞳も、ありありと思い出すことが出来る。
 ぼくは今日、寂れた海洋博物館の一角で、そんな初恋の相手と再会した。君は変わらず、まん丸な瞳にぼくを映していた。でもただ一つだけ違う所、昔に比べて白くなった肌を見ているとなんだか悲しい気持ちになってきた。
 いや、悲しい気持ちを自覚したと言うべきだ。保存液漬けになった君を見て気持ち悪い、という他のお客さんの声をぼくはどこか遠くで聞いていた。
 ぼくだって本当はよく分かっていたんだ。
君がここにいること。
君が渚に迷い込んで死にかけの深海鮫だったってこと。
タイドプールに横たわる君をぼくがべたべた触ったせいで君が深海に帰れずあの場所で息絶え、標本にされたことも。
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公開:20/07/06 20:35

若海 葉

海と魚と怪獣が好き。
飽きやすいので継続できるかどうか分かりませんが、今は文章を書くのが楽しいです。

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