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大きな契約を取り付けて職場へ帰る途中、前から見覚えのある男が声をかけてきた。
「元気そうだな」
「…ああ」
「俺は首の調子が悪くて。それより今から飲みに行かないか?」
「悪いけどまだ仕事中で…」
「じゃあ今度うちに寄ってくれよ。これ、住所。今度は約束破るなよ」
二つ折りにした紙を受け取り、男を見送ったが誰だか思い出せない。破ったという約束にもピンとこず、職場の友人に男の特徴を話した。
「それ、去年契約切ったとこの担当者じゃないか? たしか名前は…」
その名前に記憶の穴がすっぽり埋まった。いつも通り契約すると約束したのに、直前になって断ったのだ。
「まずいな。飲みに誘われたんだけど」
「…冗談キツいぜ。契約切った後に首吊ったって聞いたぞ」
「…死んだのか?」
「植物状態だって」
俺は慌ててもらった紙を開いてみた。そこには病院名、病室と「約束だからな」という震えた文字が男の苦しみを訴えていた。
ホラー
公開:20/07/06 08:49

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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