天狗の下駄

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僕は昭和の大スターだ。今は郊外の家で一人暮らし。誰も見向きもしない。
テレビの「懐かし番組」に、たまに声がかかるだけ。落ち込む日々だ。

ある夜、僕の夢に天狗が現れ、「下駄」をくれた。昔の自分の姿が、空から見られる下駄という。

次の夜、夢の中でその下駄を履いてみた。
その瞬間、空の高みで、スタジアムで満員の観衆を前に熱唱する、自分の姿を見ていたのだ!

眺めながらフト思った。自分の歌が思ったより下手なのだ。
踊りもわざとらしい。観客は熱狂しているが、本当に喜んでいるか?それは判らない。

急にスタジアムが遠のくと、僕は地面に吸い寄せられた。
ハッと気づくと自分の寝床だった。

次の夜。夢にまた天狗が現れた。
「この下駄はお返しします」と僕は言った。天狗は頷き、何処かへ飛び去った。

次の朝、僕は一人でカラオケをしに出かけた。
自分の昔の歌を歌うのだ。もっと上手に歌える様になるために。
青春
公開:20/07/05 18:18
更新:20/07/12 21:21

tamaonion( 千葉 )

雑貨関連の仕事をしています。こだわりの生活雑貨、インテリア小物やおもしろステーショナリー、和めるガラクタなどが好きです。

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