私小説作家

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今日はベストセラー作家への取材。取材は午後三時から、二時間程。気難しい人なのか、他のライターに助言を貰おうとしても皆して口を噤む。
だが入社2年目で念願が叶った!

「先生の作品は、必ずどんでん返しを入れてますね」
「私の人生が意外なことの繰り返しでね。実際に体験したことは、表現面で必ず強く表れるものよ」
「次回作もそのご予定で?」
「今ね、ライトノベルやアニメで異世界転生モノが流行っているのは知っている?」
「え?ええ勿論」
「次回作はそれでいこうかと思うの」
「ええっ!?専門は私小説でしょう!?」
「ええ、だから異世界転生する人を眺める女性を主人公にするの」
「はあ……?」
「主人公は、24歳の出版社の青年でね、取材の帰りに事故死するの。今日の夕方にでも書き始められるわ。大丈夫、実際に体験したことを書くのは得意なのよ」

僕は取材を十分も掛けずに終わらせ、這々の体で先生の家を後にした。
ホラー
公開:20/07/05 16:33

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