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毎年誕生日には、母がバラの花束をくれた。真紅だったり、水彩絵の具のような淡い黄色だったり。ほんのりと甘い香りが鼻腔から体内にすべりこむと、自分から放出していると錯覚するくらいうっとりする。
ある日、母はなかなか赤ちゃんができずに悩んでいたと聞かされた。だからちょっとした取引をしたの、と。
誰とどんな取引をしたのかは不明だが、バラの花束は愛されている証拠だと思っていた。
花の本数が減っていると気づいたのは十六歳を迎えてすぐの事だ。
過去の誕生日の写真を眺め、一年に一本ずつ減っていく理由を母に問えないまま私は大人になり結婚した。七年前には子供を産み、今日三十八歳の誕生日を迎える。
今年のバラは一輪だろう。
そして来年は…。

「ママ〜。おばあちゃん来たよ〜」
「はーい」
玄関先に立つ母が、喪服姿に白いバラの花を一輪胸にあて、
「ごめんなさい…」
と泣くのを見て、取引は終了したのだと悟った。
ホラー
公開:20/07/03 12:30
更新:20/07/03 17:01

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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