プロポーズの憂うつ

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スレンダーな見た目が自慢だった。
初対面の人からも「きれいね」って褒められたし、自分でも誇りに思って生きてきた。
彼ができてからも、この見た目をキープできるように気をつけてきたし、彼だってそんな私のことを大きな手で優しく包んでくれた。
ずっと、幸せの真ん中にいるような心地だったけど、それは同時に憂うつの始まりでもあった。

前屈をし、伸びをする。
この自由が奪われるなんて、残酷…。

そろそろだろうとは薄々気づいていたけれど、いざ目の前に出された物に怖気づく。
それでも私に拒否する権利なんかない。
彼女が彼からのプロポーズを受け入れると、私の身体には冷たくて硬い金属の塊が巻かれた。

…クスクス…
…かわいそうに…
…あーあ、せっかくの美しさが台無しね…

右手の薬指からの妬みや、他の指たちから哀れみの目で見られる私の憂うつを理解してくれる人なんて、きっとこの世には一人もいない。
その他
公開:20/07/03 08:50

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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